乳房再建、放射線治療の影響どのように考えるか?-脂肪注入という対抗手段-

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乳房再建に対する放射線治療の影響どのように考えるか?-脂肪注入という対抗手段-

放射線治療の身体的影響とは?

乳房再建をする患者さんにとって放射線治療を伴う場合、身体的にどのような不具合があるのでしょう。まず放射線照射は悪い細胞にダメージを与えて、細胞の増殖を抑制させることで腫瘍が広がるのを防ぐ効果がありますが、同時に正常な細胞までダメージが加わることが問題になります。

そのため、照射された皮膚だけでなく、脂肪や筋肉、乳腺はダメージを受け、血流が悪化することによりキズが治りにくくなったり、皮膚が伸びにくくなったりします。汗腺や皮脂腺も働きが衰えるため、汗が減って皮膚炎を生じたり、皮脂の分泌が減って皮膚が乾燥したり、かゆくなることもあります。また、個人差はありますが照射後は皮膚の黒ずんでしまい、また胸の形を整える事にも問題がないともいえません。

放射線治療は乳房再建にどのような影響を与えるのか?

放射線治療が伴う場合は、インプラント再建において特に問題が起きやすくなります。先程申し上げた通り、放射線によって組織再生や炎症を抑制する細胞が正常に機能しないため、いろんな不具合が起きてしまいます。実際に合併症が増加し、乳房の整容性も低下させることが知られています。

手術してからそれほど時間が経過していない段階では、キズが治りにくいこと、手術の傷口からの感染、インプラント露出(インプラントが飛び出てしまうこと)などが問題になります。また、炎症がなかなか治まらないことが原因と考えられていますが、長期的には被膜拘縮になりやすく、それに伴う変形や痛みなどが起こる可能性があります。

一方、自家組織再建でも※1脂肪壊死を引き起こしたり、再建後の乳房が萎縮したりすることがあります。また胸部から離れた身体の一部から自家移植する場合においては、血管を吻合して移植組織に血流を付け加える必要があるのですが、その時に胸部の血管にもダメージがあるために、血管吻合にトラブルが生じる可能性も少し増えてしまうと言われています。

再建時期・方法によって個別に注意点や対策を考える必要がある

(1)一次再建(乳がんの手術と同時に始める再建)

一次再建を希望する時には、術後に放射線治療を受ける可能性があることを念頭に置く必要があります。

乳房全切除術と同時にインプラントを挿入する方法をダイレクトインプラントといいます。ダイレクトインプラント後の放射線治療は皮膚への影響を見きわめながら慎重に進めなければなりません。皮膚が放射線治療と乳房切除によるダメージを受け血流が悪くなったしまった場合、インプラントが露出したり、感染してしまうこともあります。その場合、インプラントを取り除くことが必要になることもあります。

自家組織再建の場合,再建した乳房への放射線治療は1脂肪壊死や再建乳房の萎縮を引き起こす可能性があるため、再建乳房の形が変わる可能性もあります。

一次二期再建では、最初の手術でエキスパンダーを挿入し2回目の手術でインプラントまたは自家組織への入れ替えを行います。金属を使用しているエキスパンダー(アラガン社製のエキスパンダー)を挿入した状態で放射線治療を行った場合、金属部分が放射線線量の分布を不均等にさせるとの報告があります。

乳癌診療ガイドラインではエキスパンダーからインプラントへの入れ替え後に放射線治療を行うことが望ましいとされています。しかし、乳房全切除術後の放射線治療は術後20 週以内に始めることが推奨されており、インプラントへの入れ替えのタイミングを担当医と相談する必要があります。

(2)二次再建(乳がん治療から一定の期間を置いて行う再建)

乳房全切除術後に乳房がない状態で放射線治療を行った後,乳房再建を行う場合です。選択する再建方法によって以下の点に注意が必要です。

インプラントによる二次再建:放射線治療後の皮膚は弱くなったり、伸びにくくなったりしているため、インプラントによる二次再建が難しくなる場合があります。インプラントでの再建を希望する場合には、放射線治療後の皮膚の状態や皮膚の厚さなどを考慮し、再建が可能かどうかを再建の担当医とよく相談する必要があります。

脂肪注入術という対抗手段!

放射線照射が悪い細胞の働きを麻痺させるだけでなく、同時に正常な細胞までダメージが加わることが問題だと述べました。その正常な細胞の中で、再生力や炎症を調整したりする、特に※2幹細胞が障害を受け、あるいは欠乏していることが原因であると考えられています。そのような場合、脂肪注入術を行うことで、脂肪内にある幹細胞が追加投与されるため、放射線の影響が軽減される、あるいは予防されるかもしれないと考えています。

実際に、これらのことは多くの細胞や動物実験で確認されており、臨床でもそのような効果が少しずつ実感されていています。今後も放射線治療の乳房に対するいくつかの障害を克服するための解決策として脂肪移植術に大きく期待したいものです。

※1脂肪壊死…脂肪の細胞が死んでしまうこと。
※2幹細胞…入れ替わり続ける組織を保つために、失われた細胞を再び生み出して補充する能力を持った細胞。

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