乳房再建における意思決定

あなたは「何を大事にして決めたい」ですか?

乳房再建を決断するまでに「知っておきたい」こと

手術のことについて考える時間がどのくらいあるかを知りましょう。

手術を実施するまでには診断されてから1ヶ月から3ヶ月程度の時間がかかる場合が あります(医療施設により異なります)。再建法を決めるまでにどのくらいの時間が あるのか医師に相談してみましょう。そうすることで少しでも気持ちが落ち着いた状 態で情報を得たり、考える時間が確保できるでしょう。

決断した再建法が自分に適している理由を確認しましょう。

医師が具体的に再建法を提案するには理由があるはずです。なぜそうする必要があるかを聞くことができます。また乳房再建は乳癌の手術とは別日に後から行うこともで きます。

再建をうける病院の特徴を知りましょう。

自分自身が治療をうける病院でどのような再建が可能か、そしてどのような提案があ るのかを予め相談しておく事も大事です。

乳房再建を行わない選択肢について

乳癌術後に乳房再建を行うことで、乳房の形態や下着の装着、身体のバランスなどの 面で回復する可能性がありますが、行わないという選択肢を決断することで健康状態 を損なうわけではありません。乳房再建を行うことによる身体的・経済的負担も合わ せて考えてみてください。

あなたの乳房再建を考えよう

乳房再建を行った後は再建した乳房と一緒に新しい生活がはじまります。 あなたのライフス タイルや生活への影響を知り、あなたに合った治療を選択することが大切です。 手術の効果と手術後の生活の質(Quality of Life;QOL)への影響を知ることが大切です。 再建法の違いによる共通点、相違点をあなたのライフスタイルや生活に影響する可能性を考えながら整理してみましょう。

ここでは胸のふくらみ、傷の大きさ、位置、手術後の乳房の皮膚の感覚について、それぞれの手術後の方法による共通点や違う点をお伝えしていきます。あなたの希望とライフスタイルに合う方法を想像しながら見てみましょう。

乳房インプラントに よる再建術

胸の膨らみと形・乳輪乳頭

自家組織による再建に比べて、やや自然さに欠けることがあります。時間経過で形態が変化することもあり、乳頭・乳輪の位置が少し変位することがあります。

身体の負担

他の部位を傷つけるこ とがなく再建できます。

傷など

胸部以外の新たな傷はできません。

痛み

合併症が生じた場合、痛みが長引くことがあります。人によっては、組織拡張器挿入中に強 い痛みを自覚することがあります。

起こりうる問題・留意点

まれにインプラントの破損やカプセル拘縮が生じることがあります。 術後、定期的な検査など長年のメンテナンスが必要になります。

自家組織 ( 皮弁 ) に よる再建

胸の膨らみと形・乳輪乳頭

自然な胸のふくらみが 再建されやすくなります。時間経過で形態や位置 に変化が少ないと言えます。広背筋皮弁ではボリュームダウンすることがあります。乳頭・乳輪の位置が少し変位することがあります。

身体の負担

術後採取部位に違和感を感じることがあります。 日常生活への影響がないことがほとんどです。

傷など

背中、下腹部、大腿に 皮弁を採取したところに傷ができます。時間経過でほとんど目立たなくなる症例もたくさんあります。

痛み

合併症が生じた場合、痛みが長引くことがあります。皮弁採取部の痛みが伴 います。

起こりうる問題・留意点

自家組織再建は限られた施設で行われています。しばらく経過してからも採取部位にトラブルが生じることが あります。採取部を安静にするためのバンドや下着の装着が奨められることがあります。

皮弁とインプラント を組み合わせた再建

胸の膨らみと形・乳輪乳頭

乳房インプラントに自家組織 ( 皮弁 ) の持つ 自然なふくらみが加わります。 時間経過で形態の変化 がみられることがあります。

身体の負担

自家組織、特に広背筋皮弁の負担と同じく術後採取部位に違和感を感じることがあります。日常生活への影響がないことがほとんどです。

傷など

背中の片方に傷ができます(広背筋皮弁) 採取する組織の量によっ て、背中の傷の長さは変わります。

痛み

合併症が生じた場合、痛みが長引くことがあります。皮弁採取部の痛みが伴 います。

起こりうる問題・留意点

自家組織とインプラントを組み合わせた再建は限られた施設で行われています。まれにインプラントの破損 やカプセル拘縮が生 じることがあります。 術後は定期的な検査や長年のメンテナ ンスが必要です。

脂肪注入術

胸の膨らみと形・乳輪乳頭

乳房の部分的な変形やふくらみの不足を修正することができます。複数回行うことで大きめの膨らみを作ることができます。

身体の負担

採取部位が一時的に硬くなったり、腫れたりすることがありますが、日にち薬で回復します。

傷など

傷は小さく、ほぼ目立ちません。

痛み

合併症が生じた場合、痛みが長引くことがあります。
他の再建法に比べ軽度なことが多いと言えます。

起こりうる問題・留意点

限られた施設で行われています。採取した部位が硬く なったり、くぼみやへこみが生じる場合があります。脂肪の生着率(移植してからある一定期間機能しているか)の問題があります。 注入した脂肪が嚢胞になり、再発とまぎらわしい場合があります。

乳房の知覚

乳がんの切除手術でどれだけ神経を含めた皮膚が温存されたかに大きく影響されます。 多くの場合、皮膚の感覚は残りますが、手術前よりも皮膚の知覚が鈍くなることもあります。 また、時間経過で回復しますが個人差や限界もあります。一般的には自家組織による再建の方が回復しやすいと言われていますが、症例によって様々です。

乳房再建後をイメージして決める

胸の形や傷のことを考えることは、手術後の生活の見通しをイメージすることに つながります。 例えば、乳房の形が変わる、失うことによって、多くの心配を感じるかもしれません。

  • 女性らしさが失われてしまうだろうか? 
  • 子どもや孫はどんな反応をするだろう?一緒にお風呂に入れるかな?
  • 大好きな温泉にまた行ける?補正のために使うパットがわずらわしくならないかしら?
  • パートナーとの関係性が変わってしまわない? 
  • 私の胸の形は、手術を受けるとどのように変わるのだろう? 
  • 傷はどこにどのぐらいの長さになる見込みなのだろう? 
  • 手術後も胸 のあいたおしゃれなドレスを着たいから傷は目立たない方がいいなぁ・・・

など、不安や疑問があれば医師や医療者に話し相談し、ひとつ一つ解決していきましょう。あなたがなりたい自分自身の姿に近づき、そしてこれまでと変わらないあなたらしい生活を送る選択肢の一つ、それが「乳房再建術」です。  

入院期間

乳房インプラントに よる再建術では約 7 日間程度になります。非弁による自家組織再建や皮弁とインプラント を組み合わせた再建であれば約 7-10 日間程度の入院が必要になります。
脂肪注入での手術は、日帰り局所麻酔でも可能な事があります。


回復までの期間

入院期間は、治療を受ける医療機関と、手術後の経過により異なります。 再建による入院期間や、定期的な通院がどのぐらいの期間必要かについて は主治医または、形成外科医に相談しましょう。元の活動ができると感じられるまでの期間は、個人差が大きいかもしれません。
インプラント、脂肪注入では術後 2 週間で日常生 活に復帰できることが多く、自家組織(皮弁)を使った場合は術後 2 ー4週間で普通の日常生活に復帰できるようになるでしょう。

術後の制限

再建側の胸の筋肉を激しく動かす、上肢挙上(腕を上にあげる)などの制限が望まれます。
インプラントを使った再建では、胸の筋肉を強く動かすことでインプラントが回転したり、位置 がずれたりすることがあります。
自家組織再建では、下腹部採取の場合、術後しばらく(1か月 程度 ) は腹筋に力が入る動作は控えた方がよいでしょう。
脂肪注入-胸の筋肉を強く動かす ことで脂肪の生着が低 下することがあります。
腕や身体への負担と再建の状態を医師と相談しながら活動を再開して下さい。

いろいろな費用について

手術にかかる費用、治療後にかかる費用についてあらかじめ医療機関で相談することができます。なるべく限度額申請や高額療養費に ついても相談しておきましょう。

乳がんの手術に関する費用(手術代など)以外に、入院費用、通院にかかる交通費はもちろん、腹帯や再建した乳房を安静にするバンドや専用の下着、乳頭形成術を行った場合は乳頭保護器の装着がすすめられことがあり、それらの購入費が必要となります。手術後は、胸のふくらみを補うパッド、人工乳房、ブラジャーなどの費用がかかります。

また、乳房再建は治療の一環として健康保険(公的医療保険)の適用になる方法と、適用にならない方法があるので情報収集が大切です。手術以外の治療を受ける場合にも、その治療費がかかってきます。

  • 私が個人で加入している医療保険でカバーされる治療はどれかな? 
  • 自治体でのガン支援や補助などはないだろうか?
  • 乳房再建の手術後にも使える専用の下着は、どこで買えるかな?
  • 値段はいくらくらいするのだろう?

など、事前に情報を集めておくと予算の範囲内で安心して治療を受けることが出来ますね。

手術や入院に かかる費用

脂肪注入以外は保健診療になります。高額医療申請することができます。 再建法と入院期間を病院に伝えることでおおよその医業料を算出し てくれますので相談してみましょう。

脂肪注入は自費になります(2023現在)。 施設によって異なり、1回の施術が 5-40 万円と幅があります。あなたの希望する病院へ確認するようにして下さい。


その他に かかる費用

術後に必要な腹帯、胸部固定のバンド、下着などは、ご自身で購入していただくことになります。 手術後に、胸のふくらみを補うパッド、人工乳房、ブラジャーなどの費用がかかります。

乳房再建・体験者の声

他の乳房再建体験者が何を大事だと考えて手術の選択をどのようにしたのかを知ることは、あなたにとって大事なことを明確にする時、これから先の生活を具体的に考える時、様々な場面でとても参考になるかもしれません。

  • 痛み、傷の大きさ、苦痛の程度、仕事への復帰などを知ることができる。 
  • それぞれの再建方法にどんなメリット(長所)があるのか?
  • これから何が起こるのか、おおよその見通し。
  • 具体的な体験(いつ、どんな、どのぐらいなど)
  • 選んだ後や選ぶまでの道のりを振り返って思うこと 。 
  • そのことを選んだ結果どのような生活を送っているかということ。 

他の体験者の体験は、体験した人のことばで語られています。それは「具体的で わかりやすい」という特徴とあなたが抱える不安へのヒントも見つけられるかもしれません。

一人ひとりが持つ、ストーリー

一人ひとりの体験にはストーリーがあります。これからあなたの身に起こることの理解を助けてくれます。しかし同じ手術を受けても「一人ひとり感じ方が違う」ことを理解しておくことが大切です。他の体験者の体験を知る時に、どんな点を考えておく必要があるでしょう?

●体験者の中には、あなたが想像していなかったつらさを体験している人がいるかもしれません。つらい体験を知ることで、様々な不安が出てくるかもしれません。しかし、他の方が経験したことと、あなたが経験することが同じとは限りません。

●複数の人の経験を知ることで、たくさんの体験があることを知ることができるでしょう。『体験の幅』を知ることができれば、実際に起こること以上に想像が膨らんでしまったり、不安が増したりせず、落ち着いて考えることができるでしょう。 

乳がんの医療は日々すごいスピードで進歩しています。体験した方々がいつ頃治療を受け、いつ頃のことをお話ししているのか、体験談を知る際に合わせて確認して下さい。

体験者の声をもっと知りたい

ほかの患者さんの体験談の活用について詳しく知りたい場合は、「患者さんと家族のための意思決定ガイド」ウェブサイト内の「体験談を意思決定に活用する」ページにアクセスしてください。病院によっては、手術を受けた患者さんとお話をする機会が得られる「ピアサポート」の支援体制がありますので、スタッフに尋ねてみましょう。

「一人で悩まない」

それはとても大切なこと

医師や看護師がいつでもあなたをサポートするためにいることを忘れないでください

乳がんの治療、乳房再建などたくさんの選択をしていかなければならないとき、ついつい一人で頑張りすぎてしまうことがあるかもしれません。あなたに決して忘れてほしくないことは治療を受ける病院の医師、そして看護師も医学知識の理解が深まるのを助けたり、あなたが何を大事にして決めたいかを考えるサポートができます。 気持ちがとても辛い時には理解がうまくいかなかったり、理解するまでに時間がか かったり、考えがまとまらないこともあります。一人で悩まずに医師や看護師にご自分の気持ちを伝えてサポートしてもらいましょう。そう、あなたは一人ではありません。