医学的な特徴について

もっと知りたい「乳房再建」

ここからは乳房再建法について、より詳しくお話ししていきたいと思います。インプラントを使った手術の特徴と知っておきたい注意点、自分の組織を使った自家組織再建の種類と手術方法について共有したいと思います。

シリコン・インプラントの乳房再建について

身体的負担が少ないインプラントを使った「再建」と術後のメンテナンス
2013年度よりシリコン・インプラントを用いた乳房再建も保険診療が認められました。シリコン・インプラントを使った乳房再建は手術時間や入院時間が短いことが大きなメリットと言えます。また自分の組織を使う自家組織再建よりも経済的、身体的な負担が小さいと再建法といえます。

組織拡張器を用いたシリコン・インプラント(人工乳房)による再建

一般的な二期的乳房再建(エキスパンダー/組織拡張器を用いた場合)
インプラントを入れる前に、ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)を大胸筋の下に挿入して、胸の皮膚と筋肉を伸ばすのが一般的な方法です。

挿入後、注入口から生理食塩水を足してエキスパンダーを徐々に膨らませ、皮膚と筋肉が十分に伸びたところでインプラントに入れ替えて再建手術を完成させます(患者さんの希望や状況によって、エキスパンダー挿入後に自家組織による手術を選ぶこともできます)。

1-2週間に1回の頻度で術後1-2カ月くらいの期間に外来で生理食塩水を組織拡張器に注入します。1回の注入時間は10分程度です。

組織拡張器と入れ替える人工乳房は主にシリコンバッグを使用します。シリコンバッグはコヒーシブ(固着性)シリコンバッグです。破れても中身が周囲に撒布されないように工夫されています。しかし、実際に破損した場合は漏出したシリコンが周囲の組織に広がるため、早めの交換や抜去が望まれます。

インプラント(人工乳房)を直接挿入する再建

一次一期乳房再建(乳房切除と同時に乳房インプラント再建する方法)

皮膚と乳頭など乳腺以外の組織が血流の良好な状態で温存された場合は、組織拡張器を使用せず、直接乳房インプラントを挿入して再建する方法を選択することもできます。

乳癌切除手術と同時に一回の手術で再建できることが大きな利点になります。しかし乳房インプラントの選択が難しい点や、感染のリスクも少し増加してしまうのが欠点となります。

インプラントの選択について

保険適用で使用できるインプラントの形もあなたの乳房の形や大きさに合わせて、しずく型(アナトミカル型)おわん型(ラウンド型)を選ぶことが出来ます。あなたに合ったインプラントのタイプ、そしてメリットやデメリットを医師とよく相談して決めていきましょう。

スムースタイプ(表面つるつる)インプラント
テクスチャードタイプ(表面ざらざら)インプラント
スクロールできます
スムースタイプ(表面がつるつる)テクスチャードタイプ(表面がざらざら)
メリット
・回転のリスクがない。
・過去BIA-ALCLに至った症例報告がない。
・お椀型の乳房の場合は適している場合がある。
メリット
・座ったり、立ったりした状態の乳房の形態に近似している。
・より自然な形態になることが多い
デメリット
・座ったり、立ったりした状態の乳房の形態がお椀っぽくなる。
・高齢者や多くの乳房で形態にそぐわないことが多い。
デメリット
・回転のリスクがある。
・過去BIA-ALCLに至った症例が少ないながら存在する。

インプラントのメンテナンスと耐久性

人工物を体内に入れるため感染症を招くことがあります。感染症は、手術から長期間を経ていても起きるおそれがあり、その場合はインプラントを取り出して再建手術をやりなおします。

異物に対する免疫反応として、テクスチャードタイプ、スムースタイプにかかわらずインプラントの周囲に薄い膜が生じ、かたくしまって痛む「被膜拘縮」という合併症が起きることがあり、保湿など日常のケアが必要です。

乳がんの治療で放射線照射を受けた方は、血流が悪くなり種々の合併症を起こしやすい傾向があります。

合併症の1つに「ブレスト·インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」があります。ですが、たとえリコールとなったインプラントを使用していたとしても、すぐに入れ替えなければいけないという緊急性はありません。

年に1回の定期検診と2年に1回の画像診断を欠かさず受け、さらにご自身の胸の小さな変化に気づけるよう、自己検診を行うことで、不安なく日常生活を送っていただけます。

万が一異常を感じた場合には、すぐ医療機関に相談しましょう。

インプラントには永久的な耐用性は保証されておらず、さまざまな理由で破損することもあります。現在使用されているインプラントはいずれも安全性の高いものではありますが、毎年の定期検診を欠かさず、医師の指示に従って入れ替えを検討することが望ましいです(入れ替えの際に、自家組織での再建に切り替えることもできます)。

なお加齢にともなう乳房の下垂がないので、将来的に左右のバランスをそろえる手術が必要になることもあります。

自家組織による乳房再建

自分の組織を利用して乳房を再建する自家組織再建
あなた自身の皮膚や脂肪(一部筋肉も含まれます)を用いて、乳癌切除後の欠損部に移植し再建する方法です。利点は、自分の組織という安心感が得られることや、自然な柔らかさ·温かさを取り戻すことができることです。欠点は組織を採取したところに傷ができてしまうことですが出来るだけ目立たないように工夫されています。医療施設によって異なりますが、以下の3つの方法が多く用いられています。

広背筋皮弁 -背中から組織を採取する再建法-

比較的小さな乳房の欠損に使用されることが多い傾向があります。 腋(ワキ)の血管を支点とし背部の脂肪組織と筋肉( 広背筋) を振り子のように胸部に移動させる再建法です。組織採取部の負担が少ないのが利点です。組織量に限界があること、術後背部に体液が貯留しやすいことなどが欠点となります。 

術後の傷跡について

自家組織を採取した傷痕は出来るだけ下着に隠れるよう工夫しています。傷が膨れたり、赤くなる体質でなければ1年ほどで白くて薄い線になることがほとんどです。傷跡に関しての心配な点は遠慮なく医療スタッフや医師に相談してください。

傷跡は下着に隠れるように工夫されています。

腹部皮弁 -腹部から組織を採取する再建法

おなか( 主に臍の下) の脂肪·皮膚あるいは筋肉とこれらを栄養する血管を付けて乳房欠損部に移植し、胸部の血管と吻合して再建する方法です。最近は腹直筋を温存する方法(DIEP 皮弁)を行う施設が増えています。まれですが、血管吻合に伴う血流障害や皮弁壊死のリスクが伴うことがあります。
おなかから組織を採取するので、比較的ボリュームのある乳房の方にも向いています。

出産を希望している方、おなかに手術のある方は慎重に検討する必要があります。今後のことを考え、医師と相談しながら考えていきましょう。

大腿部から採取する皮弁による再建法

大腿内側の脂肪( および皮膚) を栄養とする血管を切り離して胸部に移動し、血管吻合を行い胸部に移植する方法です。

大腿部から採取する皮弁による再建法では、腹部皮弁に比べて採取部の傷が目立ちにくいという利点があります。

この再建法は、採取できる組織量が少なくなってしまうという欠点があり、そのため比較的小さい乳房欠損に対する再建に適していると言えます。

脂肪注入術

脂肪注入術について

乳房インプラントや自家組織再建に関わらず、通常の再建計画で乳房の体積を十分再建できない時に乳房のボリュームを増やしたり、乳房の凹みやひずみを修正する目的で行います

脂肪注入はおなかやふとももに小さな皮膚切開を行って吸引した脂肪組織を、細いカニューレを用いて注入し、遊離移植を行う身体への負担が少ない技術です。

特に乳房インプラントを用いた乳房再建において部分的な組織不足や段差などの修正に有効です。

また、他の再建と組み合わせたり、治療が落ち着いてから日帰り手術で行うこともあります。
採取部分の傷もほとんど目立ちません。ただ、一回の注入量には限界がありますので複数回の脂肪注入が必要になります。

乳房の状態によって、乳腺科の主治医から推奨されない場合は脂肪注入を行うことが出来ません。
※現在、脂肪注入術は自費診療となっています。

その他の再建について

乳頭・乳輪再建

乳癌手術で乳頭・乳輪を一緒に切除する必要があった場合、希望に応じて再建できます。再建のタイミングは乳房のふくらみを作り、少し落ち着いた頃に行います。一般的には日帰りで、局所に麻酔をする手術で再建することが出来ます。乳がん手術によって失った乳頭や乳輪を再建したいけれど、手術に抵抗がある場合には人工の乳頭や乳輪もあります。

局所皮弁による形成 ( 再建 ) 

胸の皮膚と脂肪を折りたたむようにして乳頭を作ります。日帰り、局所麻酔で行うことができます。再建した乳頭が縮む症例があります。しかし術後しばらく乳頭保護装具を付けることで、ある程度予防できます。

乳頭の分割による再建

将来に授乳の可能性がない場合は、健側の乳頭を分割して移植する方法もあります。健側の乳頭が小さくなりますが、より自然な乳頭が形成できます。皮弁による再建よりは、術後に安静が重要となります。 

乳輪·乳頭の色付け

乳頭·乳輪への色付けには、医療用刺青器を用いたアートメイク(自費診療)を行うか、同じような色調と質の自分自身の皮膚(健側の乳輪や鼠経部など)を移植する方法があります。

乳房縮小·固定術

乳房が下垂している、バストの形を整えたい、垂れた部分の擦れや、湿疹などの皮膚トラブルが気になる、大きなバストが原因の肩こりや猫背が気になるような方が適応になります。

二次的な乳房再建について

乳がんの治療の後、しばらく時間をおいて乳房再建を行う方法です。一般的には乳房全摘術の症例に行うことが多いのですが、乳房温存手術も含めた乳癌術後の乳房変形や欠損に対しても、再建は可能です。

皮膚がひきつれて不足している場合が多いのが難点ですが、一旦胸部の皮膚をエキスパンダーで伸展させることで非常に質の高い乳房再建も可能となります。

放射線照射を伴う再建について

乳がんの治療で放射線治療を受けたかた、あるいは受ける予定の患者様は、照射部位の皮膚や脂肪組織、筋肉の弾力性が失われ組織が線維化(ひきつれや痛み)しやすく硬くなり、傷が治りにくくなるなど、乳房再建でいろいろな合併症の発生率が高くなる傾向があります。また整容性や術後満足度にもマイナスの影響を及ぼすことがあります。

照射のタイミング次第ではインプラント(人工物)再建も可能ですが、自家組織の方がマイナスの影響を受けにくいため、自家組織再建が一般的に勧められます。照射後の再建は時間をあけてから行うことが奨められます。

手術方法のメリット(長所)とデメリット(短所)の比較

それぞれの方法のメリットとデメリットの比較を医学的な点からしてみましょう。 あなたの病状により、表のすべての方法を比較できる場合と、乳房切除術のみか、乳房切除術+乳房再建術の2つの方法を比較できる場合があるでしょう。 

スクロールできます
自家組織による再建乳房インプラントによる再建
メリットメンテナンスの必要がない。
体位や加齢による形態変化
 が自然である。
インプラントに比べて柔らかい。
手術回数が減る場合がある。
組織採取部など新たな手術創が生じない。
手術による侵襲·負担が少ない
入院期間が比較的短い。
デメリット組織採取部に瘢痕ができる。
手術による侵襲が大きい。
感染·露出などのリスクがある。
2期的な再建が前提である。
自家組織に比較して硬い。

自家組織による再建と乳房インプラントによる再建を並べて比較することで、それぞれのメリットとデメリットのどこが同じで、どこが違うのか理解しやすくなります。 あなたにとっての大切な選択の参考にしてください。