乳房再建による生活の質QOLの向上:術式による違いと効果の検証
乳房再建術がQOLに与える影響:患者満足度の変化を探る
乳がん手術後に行われる乳房再建は、患者の生活の質(QOL)を向上させるために重要な役割を果たします。しかし、再建術がどれほどQOLに影響を与えるのか、また、どの再建方法が最も効果的であるかについて、多くの研究が進められてきました。今回は、乳房再建術前後のQOLの変化に焦点を当て、その効果を検証した最新の研究と、その結果から見えてきた重要なポイントを紹介します。
1. 乳房再建術の目的とその効果を測る難しさ
乳房再建の大きな目的の一つは術後の生活の質、いわゆるQOLを向上させることです。ただ、この乳房再建の効能を科学的に証明するのは簡単ではありません。これまでも乳房再建術の満足度に関する調査報告は数多くありましたが、その評価スケールや観点、重みづけ、手法はバラバラで統一したものはありませんでした。
2. BREAST-Qによる患者主体的評価の重要性
近年では特に患者主体的報告調査(patient reported outcome (Pro)による評価法が世界標準スケールとして注目され, 2009 年には 乳房に特化した患者主体的満足度調査表であるBREAST-Q 1の日本語版が開発され、これを用いた報告が増加してます。
乳房再建術の基本的な術式としてはインプラント, 自家組織再建に大別されます。そのどちらもが患者満足度の向上につながるとする報告が今のところほとんどですが、再建を受けなかった場合でもQOLには影響しないという報告もないわけでありません。一方で再建をすることで乳癌患者のもつ心理的負担が緩和されることも報告されています。とはいえ、これらはいずれも国外の研究になります。
3. インプラントと自家組織再建術の比較:どちらが効果的か?
乳房再建術の基本的な術式としてはインプラント, 自家組織再建に大別されます。そのどちらもが患者満足度の向上につながるとする報告が今のところほとんどですが、再建を受けなかった場合でもQOLには影響しないという報告もないわけでありません。一方で再建をすることで乳癌患者のもつ心理的負担が緩和されることも報告されています。とはいえ、これらはいずれも国外の研究になります。
そこで2017年に私も乳房全摘術を施行された患者を対象に BREAST-Q を用いた大規模なアンケート調査を日本で最初に行いました。その結果、日本においても人工物と自家組織の再建法にかかわらず, 乳房再建を行うことで乳房に対する満足度,心理社会的健康観2,性的健康観3は大きく改善されることが改めて示されました。このように乳房再建という医療が本当に患者さんのwell-being4に貢献できているかどうかを確認する作業は大変重要だと考えています。
5. Shared Decision Making(SDM)の導入とその効果
ただ、乳房再建の満足度に大きな影響を及ぼす因子もあります。例えば合併症が起これば満足度が下がってしまうことは理解しやすいかと思います。その合併症もある一定の割合で実際に生じてしまうことは忘れてはなりません。また放射線照射例や手術前に精神的に不安定な患者は、術後不満を感じやすいという報告もあります。一方で手術前の意志決定の際に十分な説明に基づく乳房再建であれば結果の不満にはつながりにくいことが証明されています。
いわゆるShared Decision Making(SDM)という新しい意志決定スタイルが注目されています。我々はこの意思決定スタイルを取り入れたフィールドワークを実施し、乳房再建医療においてもSDMが有効であることを明らかにしました。今後はこのSDMが乳房再建領域の意志決定においても標準的に使用される時代が来るだろうと思っています。このような意思決定のプロセスにおいては乳房再建術に対する患者の術前期待度を正しく補正することも有用だと思っています。
- BREAST-Qは、乳房手術や再建手術を受けた患者の満足度や生活の質(QOL)を評価するアンケートで、世界中で幅広く使用されています。 ↩︎
- 社会的健康観、個人の精神的、心理的、そして社会的な側面を重視して健康を捉える考え方です。
①心理社会的健康観とは、個人の精神的、心理的、そして社会的な側面を重視して健康を捉える考え方です。具体的には、以下の要素が含まれます。心理的健康: ストレスの管理、感情の安定、自己肯定感など、個人の精神的な健康状態を指します ↩︎ - ②性的健康観は、個人の性的な側面に関連した健康を捉える考え方です。世界保健機関(WHO)による定義では、以下のように説明されています。性的健康: 性的な側面において、肉体的、精神的、そして社会的に良好な状態を指します。これは、単に病気や機能不全がないことを超えて、性的な関係や体験が満足感を与えるものであり、個人の幸福感や人間関係に寄与するものであることを含みます。性的健康は身体的な側面だけでなく、感情的、心理的、そして社会的な側面も含めて考えられます。これらの健康観は、個人の全体的な幸福感にとって非常に重要であり、現代の医療や公衆衛生においてますます重視されています ↩︎
- ウェルビーイング(Well-being)は、well(よい)とbeing(状態)からなる言葉。世界保健機構(WHO)では、ウェルビーイングのことを“個人や社会のよい状態。健康と同じように日常生活の一要素であり、社会的、経済的、環境的な状況によって決定される(翻訳)”と紹介しています。 ↩︎
あなたらしい乳房再建を決めるガイド
コチラからダウンロードできます