最新の研究から見える乳房再建:QOLへの影響と最適な再建方法

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放射線治療後の乳房再建とQOL、再建方法別の効果を比較

乳がん手術後に放射線治療を受ける患者様は、治療による影響で乳房再建の満足度が下がることがあります。しかし一方で、それでもなおインプラントや自家組織による乳房再建術がQOL(生活の質)を向上させる効果は高く、多くの研究で確認されています。今回は、放射線治療後の乳房再建がQOLにどのような影響を与えるのか、また、どの再建方法が最適であるのかについての研究結果について解説します。

1. 放射線治療が患者満足度に与える影響とは?

放射線治療を受けた患者様は、術後に満足度が下がる傾向がありますが、インプラントや自家組織による乳房再建術は、QOLの向上に貢献することが多くの研究で報告されています。特に、自家組織による再建術は、知覚回復1や合併症の回避においてインプラントよりも優れている可能性が報告されています。

2. インプラントと自家組織再建:どちらがQOLを向上させるか?

乳房再建術の選択肢には、インプラントと自家組織を使用する方法があります。研究によれば、両方の方法が術後の満足度を向上させることがわかっています。特に自家組織再建はQOLの向上において、より効果的であるとされています。知覚回復や合併症のリスクを考えると自家組織再建が推奨されることが多いという研究結果が出ています。

3. 高齢者の乳房再建:若年者との違いと再建方法の選択

高齢者は若年者と比較して乳房再建を受ける割合が低い傾向がありますが、QOLの面では若年者に劣らない結果が得られています。また、合併症の発生率についても年齢による差はほとんど見られません。再建方法としてはインプラントが選ばれることが多いですが、選択は患者の個別の状況に応じて行われます。


4. 自家脂肪注入 vs. シリコン製人工乳房:多施設ランダム化比較試験の結果

自家脂肪注入とシリコン製人工乳房による乳房再建術のQOLを比較した多施設ランダム化比較試験では、自家脂肪注入がQOLの面で優れていることが示されました。乳房再建術用の質問票であるBREAST-Qのスコアでも、自家脂肪注入群が人工乳房群を全領域で上回る結果となっています。

5. 乳房再建の有用性:Patient Reported Outcomeの調査結果から

私たちの病院でも、乳房再建が患者様の満足度とQOLの向上に寄与していることを確認するため、Patient Reported Outcomeを指標としたアンケート調査を実施しました。その結果、人工物と自家組織のどちらの再建法でも、乳房再建が乳房に対する満足度や心理社会的健康観、性的健康観の改善に大きく貢献していることが示されています。

研究概要

乳がん手術後のSexual well-being:5年間の変化と再建術の影響

乳がん手術を受けた患者さんを対象に、術後のSexual well-being「性的幸福感(性に関する満足度)」の変化を調査しました。術後1年目には60%の方がアンケートに回答しましたが、5年目には34.3%に減少しました。1年目の性的幸福感の平均点は32点でしたが、5年目には38点に上昇しています。


詳細な結果:乳がん患者の術後調査/1年目と5年目の変化


1年目の結果を見ると、年齢や手術の種類によってアンケートに答える割合に差がありました。また、1年目にはDIEP(腹部の皮膚と脂肪を使った再建術)を受けた方の結果が他の手術を受けた方よりも良好でしたが、5年目には手術の種類による大きな違いは見られませんでした。

結論:乳がん再建術後の長期的な満足度向上に向けて

この研究から、術後5年目の「性的幸福感」に関するアンケートの回答率が低いことが分かりました。これは、将来の研究でより多くの方が回答しやすい方法を考える必要があると考えています。

また、日本人女性の回答率が低いことなどを考えると文化や民族的背景を考慮した評価基準の開発が必要であることを示していると考えられます。


研究の方法:乳房再建術と乳房切除術の比較


乳がん手術を受けた患者さんに対し、術後1年目と5年目に「BREAST-Q」というアンケートを実施しました。アンケート結果を基に、手術後の満足度や幸福感に関連する要因を分析し、乳房切除術のみ、インプラントを使った再建術(TE/Imp)、深下腹上穿孔(DIEP)フラップ手術の3種類の手術方法で比較しました。

総合的な結論

BREAST-Q調査の結果と考察:5年後の乳房再建術の心理社会的幸福感と満足度


この研究の結果から、乳房再建術を受けた方は、乳房切除術のみを受けた方に比べて「乳房に対する満足度」や「心理社会的幸福感(精神的健康と社会的関係性)」が向上することが明らかになりました。特にDIEP手術を受けた方は、5年後の時点で最も高いスコアを示しました。このことから、乳房手術後の長期的な生活の質を向上させるためには、深下腹上穿孔(DIEP)フラップ手術などの再建術が推奨される可能性があります。

  1. 知覚回復
    知覚障害を改善して体の内外からの刺激を適切に感知できる状態に戻すことです。 ↩︎

あなたらしい乳房再建を決めるガイド

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